あのとき、5年前。

 普通に仕事をしていた。もちろん何も感じなかった。

 午後4時過ぎ、トイレに立ったときのこと。入ると偶然出てきた同僚のTさんが

「東北で大きな地震があったようですね。」

「ああ、そうですか。」

 当事者ではないので、当たり前の生返事だった。

 だがその会話を忘れ、普通に業務を終えて8時前に帰宅すると、正面のTVが映っていた。

 それまでの津波の認識は、いわゆるハワイのサーフィン動画にあるような「大きな波」の拡大版だった。


だが、テレビで目の当たりにした光景は、それまでのイメージを根底から覆した。「波」ではなく「溢れてくる大量の水」の光景に私はただ圧倒され

「何だこれ、何だこれ...。」

 と呟くのが精一杯だった。こうしてその後一週間程度他の家族同様、自然の猛威に呆然とし、絶望と無力感に苛まれることになったのだった。

 あの日から5年。今日は工場でも発生時刻に黙祷が行われた。作業中で改まって姿勢はとれなかったものの、数秒間犠牲者のことを思った。これを続けていこう。できることなのだから。

 合掌。